インタビュー

理論と実践。ビジネスの成功に「なぜつながらない?」にビジネス界のカリスマ・田端信太郎さんが答える

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社会にあふれるほど存在するビジネス書。あちらこちらで示される経営理論・メソッド。でも、それらを実行して成果をあげた人は、率直に言ってどれくらいいるのでしょうか。今回は、オンラインサロン「田端大学」の塾長も務めるビジネス界のカリスマ・田端信太郎さんに、ビジネスにおける理論と実践について話を伺いました。

空中戦は要らない。地に足のついたビジネスの実践を語る

――田端さんといえば、リクルートでフリーマガジン「R25」を立ち上げ、ライブドアでメディア事業部長に就き、LINEやZOZOで執行役員を務めてこられました。一方で広告営業で駆け回る“泥臭い”こともきっちりされてこられた。経歴だけをみると「凄い」で終わってしまいそうですが、それぞれの現場ではドラマもあったと思います。たとえばTwitterの発信で色々言われたりしたかもしれない。そういった時に、会社との折り合いをどうつけてきたのか、またはダメだから辞めたのか、このあたりを伺いたいです。
 
田端 それ、「折り合いをつける/辞める」の二択じゃないと思いますよ、僕は。究極、折り合いがつかなければ辞めるしかないってところはありますけど、だからといって会社から文句を言われてすぐ辞めるなんて乱暴な話はダサいですよね。つけられるなら、折り合いはつけた方がいい。かといって自身の美学を押し殺して働き続けることが正解だとは僕は思わない。だから僕は、ZOZOの時に「Twitterやめさせられるくらいなら会社辞めます」って最初から公言してました。
 
――凄い(笑)。
 
田端 そうすると、ZOZOの前澤さんみたいなクラスの人でも、半端に忠告することはできなくなる。くるとしたら一発でクビにするつもりでくるでしょうし、そうであるなら、僕も「あ、これは会社としての総合判断だな」と思うんで、言い訳せずに辞めます。きっとそこにはリターン/ロスの会社的な総合判断があるはずで、それは会社人として受け容れます。でも、それができるのは最初から公言してたからです。
 

――たとえば田端さんがLINEにいた時に、憲法のツイートで炎上したことがありましたが、それは注意されましたか。
 
田端 会社から厳重注意がきました。

 
――でも、それが原因で辞めたりは……。
 
田端 してないです。
 

――私が田端さんに凄さを感じるのは、そういった「会社との折り合い」、ネゴシエートから新人の単純作業まで、幅広く、“泥臭く”語れるところです。たとえば「君、これコピーとってきなさい」と上司から言われた時に、コピー機の前でウィンウィンいってるのをボケーっと眺めてる人と、その際に資料の中身をそっと見て、書類の束を上司にわたす時に、「この書類って、いつ、どんな風に使われるんですか?」「これってどこそこに出す大事な提案書ですね」って言える人と言えない人とでは差がつくぞと、具体的な目安を示してくれる。
 
田端 だって、そう言われた上司は「お、こいつやるじゃないか」って思うじゃないですか。上司に好感も持ってもらえるし、自分も会社のことを学べる。そういうことがパッとできるようにしておくのって大事なんです。今って(昔もか?)、営業を避けたがる新人とかいますけど、営業はビジネス・経営にとって凄く大事な視点を与えてくれますよ。営業といっても、広義の意味でいえば「お客さんを連れてこれる人」「お客さんから信頼される人」と言い換えられる。それは営業「部」に限られたことではなくて、他の部署にもかかわる。しかも、当の“営業”には正解がない。正解はないけど失敗はする。感覚知に頼るところも大きい。この“営業”がわからないと、基本、経営なんかできません。で、その“営業”を学ぶ時に大事なのが営業の感性を磨くことで、これって音感みたいに、座学だけじゃ身につかないんです。営業はコンタクトスポーツだと僕は言ってます。反射神経で、気づいたら体が動いてる、くらいに実戦で磨き上げるものです。

 
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「顧客目線で考える」が「机上の空論」化する時

――田端さんって、あまり知られていない(と私は思うの)ですけど、もの凄い読書家ですよね。
 
田端 田端:割とそうかもしれないです。

 
――たとえばアンドリュー・グローブの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』にパっと言及できたりする。マルクスの労働価値説だって自然に語りだせます。それで、ちょっと伺いたいのですが、ビジネス書を読んで驚きが得られることってありますよね。でも、それを実践に移す人、行動に反映できる人って意外と少ないというか、もっというとビジネス書を読んでそのとおりに実践して成功した人ってあまり見かけないなと思って。仮にビジネス書に書かれていることが「理論」だとして、理論と実践を結びつけない、結びつけられない人が多いのだとしたら、そういった人たちが理論をモノにするにはどうしたらいいのでしょうか。手触りのある感覚知に落とし込むというか……。
 
田端 まず僕が思うのは、理論と実践ってそうそう分かれてないっていうか、両方ともビジネスの手段という点では一緒なんですよね。そこを分けて考えることを僕は否定しないですけど、やっぱり分けていくと、「顧客目線で考えることが大事」って理論ですらハマらなくなる気がするんです。たとえばCMを作る時に、お客さんからどう見えるかを気にしながら15秒間の映像にいろんな要素を盛り込んでいきますけど、いざ試写しますっていう段になると、会議室のモニターに15秒間投影して、皆でがん首そろえて「うーむ」ってやってる。でも、そんなのやってもしょうがないじゃないですか。視聴者は会議室で改まってCMなんて見ないですから。いいCMを作る会社って、そのCMが流れそうな時間帯に実際に放映されてる番組を10分くらい見た後に、その流れのままCMも試し見するんです。もちろん他社のCMも一緒に。要は、番組の流れの中で、また色々なCMの陳列の中でどう見えるかまで確認するんです。それが「顧客目線で考えること」なんですけど、そう実践しない人がけっこう多い。

――ええ。
 
田端 会議室に役員集めて、「さあ、CMの試写です!」って出す。そんなの一般の視聴者からかけ離れすぎてますよ。でも、当事者は気がつかないんですよね。
 

――そうなると、ほとんど自己満ですもんね。
 
田端 社用車で出勤してテレビのゴールデンタイムは会食してますっていうような「エライ人」にこういう意思決定をさせたら、多くの場合ズレますよね。そのエライ人が優秀か無能かということに関係なく。そもそもその人の日常生活のインプットが「一般」のインプットと違うんだから、それは仕方ない。だから、経営者などのエライ人は意識的に「一般」に浸かれるようにしなきゃいけない。仮に「顧客目線で考えることが大事」という理論をちゃんとインプットしようとするなら、文字を読んだだけではインプットは終わってないってことを知った方がいい。その文字情報と今の自分との距離がどれくらい離れているか、その距離感まで知ってはじめてインプットです。会社の役員等もかつては顧客目線を持っていたかもしれない。でも、今は持っていないかもしれない。

 
――つまり「顧客目線で考えることが大事」というテーゼ全体をインプットしているようでいて、その人は実は「顧客目線については、私はすでに知ってる」と前提して、一部テーゼのインプットを拒否している可能性があるってことですよね。
 
田端 現実・現物・現場に立たないと、どうしてもそうなっちゃいますよね。いや、現場にいても、テーゼ全体を「これは知ってる」「これは知らない」と分けてたら、同じように失敗しますよ。特にマネジメントをする人に口酸っぱく言っているのは、「前提を疑え」ってことです。あるテーゼがあった時に、それを素直に受け入れるのはいい。でも、その受け入れは、ある意味で、自身の身体感覚というか、自分の感性とどれだけかけ離れているか? という問い、疑いを元にします。そこを整合していくのって理論というより実践ですよね。
 

――理論をインプットするという作業自体がそもそも「実践」なんだと。その意味で、理論と実践は明確には分かれていないということですね。「理論」というふうに区別して言い切ってしまうと、どうしても「これは知ってる」「これは知らない」と判断しがちですが、そもそも理論と実践が手段という点で一緒だと考えたら、また違ってきますね。
 
田端 もちろん薄っぺらい内容の本を実践してもアレですけど、良質な考えやメソッドはきちんと吸収して、マネた方がいいです。繰り返しになりますが、その最初の段階で、考えやメソッドと自分の距離感をつかむこと。ここです。Twitterなどはそういう意味でいうと、建て前なしのやりとりが多いから、学べることも多いです。確か、リンカーンの言葉だったと思いますけど、「少数の人をずっと欺き続けることはできる。多数の人を少しの間欺くことはできる。しかし、多数の人をずっと欺き続けることはできない」ってあるじゃないですか。嘘って、やっぱり長くは続かない。建て前もそう。「ホント」を無意識に察知する大衆のセンサーに対する恐れが僕にはあって、だから大衆の声っていうか、市場を行き来する人たちの言動をよく見聞きするようにしています。

 
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ビジネスから離れ、生身の自分を解放することでバランスをとる

田端 そもそも論になっちゃいますけど、「理論と実践をつなぐ正解」ができちゃったら、つまり誰にでも再現性があるサイエンスになったら、もうそれってビジネス的な価値がないですよね。
 

――確かに。成功の方程式があって、みなが実践できて巷にあふれるなら、それをサービスとして売る意味もなくなります。
 
田端 ビジネスの手法とか考えって、再現性があるようなないような、そんな感じなんですよ。僕は「アートだ」って言っていますけど、「所詮、理論だろ」って何も学ばないわけにもいかない。いや、「まず、やれよ」っていうのは大事なんです。ただ、ビジネスをラクしてスケールさせようとしたら、おのずから理論的になりますよ。
 

――たとえばマニュアルに落とすといったような。
 
田端 理論って、理論自体に価値があるというよりは、理論的に取り組むことが効率的で生産性が高まることにおいて価値があるわけじゃないですか。理論を組み立てるという実践ですよね。「時代時代に最適なサイエンスであるかどうか」より「エフェクティブであるかどうか」の方が大切と僕は感じてます。

――効果的である、有効であるということですね。
 
田端 そう。だから、時を経て理論が有効でなくなったら、変える。
 

――でも、世の中を見てみると、過去の理論を惰性で続けている例って多いですよね。
 
田端 ビジネスって他人からのフィードバックが忖度なしに来るじゃないですか。現実からのフィードバックが。そこからの学習効果が凄いのに、もったいないです。僕は、そういう文脈でいうと、「体をリセットする」みたいな機会を設けてますね。ビジネスから己れを遮断する、みたな。まあ好きでやってるんですけど。

――どんなことをされてるんですか?

田端 サーフィンとかサウナとか。

――感覚を解放する、的な。体を動かせば、感覚知というか身体知も磨かれます。
 
田端 感覚知というと、僕なんかは内田樹さんを思い出しますね。内田さんって思想家であるとともに合気道もされてるじゃないですか。
 

――そうですね。内田さんの『荒天の武学』という本では、対談者・光岡英稔さんが拳銃や刃物が出てくるストリートファイトを生きながら武道に行き着いた経緯、武道の追求を踏まえながら、感覚知、身体知を特化的に語っています。「一寸先は死」みたいな話がどんどん出てくる。
 
田端 そういう話のおもしろさ、わかります。そういった「生きるか死ぬか」みたいな状況は感覚知が研ぎ澄まされる極みですが、武道のように体を使うことは大事ですよね。こじつけみたいですけど、僕がサーフィンをしてるのも、その意味合いにおいてかもしれません。サーフィンって、スマホを持ってやらないですよね。情報を遮断して、体一つでやる。これって、身体感覚を磨くのに凄くいいんですよ。ホントに、ビジネスから離れた感じしますもん。しかもそれは、デジタルデトックスになる。サーフィンをしてる時って、ネットのことなんてどうでもよくなるというか、たとえばサーフィンで波に巻かれて死にかけてる時に、「いま俺ネットで炎上してるからな……」なんて思わないじゃないですか。炎上なんてどうでもよくなる。僕、サウナも好きなんですけど、サウナにもスマホって持っていけないですよね。あふれる情報から一回離れて、サウナと水風呂を行き来して、で、ビールで「うめぇ~」ってなる。そういうことが大事な気がします。

――確かに、生身の経験を自身の中に基礎づけるのは大切と僕も思います。生身の経験を充実させるには、スマホから離れることが大切だと。
 
田端 社会の文脈を一回断ち切って、生身になる。で、言葉にするとか、人間社会のルールとかから離れて、〈世界〉に触れようとする。サーフィンに行って波待ちしながら夕焼けを見ている瞬間のあの何とも言えない感じ、またサウナで水風呂に入った瞬間のあのブワーって感じとかってたぶん記述不可能で、そういうものにただ没入することが必要と思います。「理論」と「実践」をあえて分けるなら、そうすることでバランスをとっている気がします。

 
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正木伸城

WRITER

正木伸城

ネオジャパン・マーケティング統括部マネージャーとして、社会・メディア・顧客・ユーザーなどステークホルダー間のリレーション構築を行っている。自社製品活用のケーススタディ取材、ユーザーへのヒアリング経験も豊富。